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松山地方裁判所西条支部 昭和55年(ワ)106号 判決

第一事件原告

秋月優

第二事件原告

近藤和則

第一事件及び第二事件被告

伊藤博文

主文

一  被告は、原告優に対し金四三五一万一五六一円、原告唯子に対し金一一二万五〇〇〇円および右各金員に対する昭和五五年七月七日から、原告近藤に対し金三七万五〇〇〇円およびこれに対する同五六年一一月四日から、各支払済まで各年五分の割合による金員を、各支払え。

二  原告らのその余の各請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを四分し、その三を原告らの、その余を被告の各負担とする。

四  この判決は、原告ら勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

(第一事件)

一  請求の趣旨

1 被告は、原告優に対し金一億五三四〇万五九九九円、原告唯子に対し金五〇〇万円および右各金員に対する昭和五五年七月七日から各支払済まで各年五分の割合による金員を、各支払え。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

3 仮執行宣言

(第二事件)

一  請求の趣旨

1 被告は、原告近藤に対し、金三〇〇万円およびこれに対する同五六年一一月四日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

3 仮執行宣言

(第一事件および第二事件共通)

二 請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの各請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二請求原因

一  事故(以下、本件事故という。)の発生(第一事件および第二事件共通)

1  日時 昭和五三年四月二五日午後五時四五分頃

2  場所 西条市大町二五〇番地の二先市道(以下、本件道路という。)上

3  加害車 普通乗用自動車(愛媛五五む第七、九二八号)

右運転者 被告

右所有者 被告

4  被害者 原告秋月優(同四五年五月一二日生で、本件事故当時満七歳であり、本件事故当時自転車=以下、単に被害自転車という。=に乗つていた。)

5  態様 西から東に向つて走行中の加害車が、被害自転車に乗つて本件事故現場の丁字型交差点(以下、単に本件交差点という。)を北から東に向つて左折完了後に直進を開始した直後の原告優に対し、衝突した。

二  責任原因(運行供用者責任、自賠法三条)(第一事件および第二事件共通)

被告は、加害車を所有し、自己のために運行の用に供していた。

三  損害

1  原告優の受傷等(第一事件および第二事件共通)

(一) 受傷 頭蓋骨・頭蓋底骨各骨折、脳挫傷等

(二) 入院期間

イ 同五三年四月二五日星加病院

ロ 同日から同年八月一六日まで済生会西条病院(昏睡状態で入院し、同年四月二六日開頭手術・硬膜下血腫除去手術を受ける。)

ハ 同年八月一六日から同年九月二九日まで愛媛大学付属病院(同年八月二一日脳室腹腔吻合手術・骨欠損部頭蓋形成手術を受ける。)

ニ 同年九月二九日から同五五年三月三一日まで済生会西条病院(一般治療・機能訓練を受ける。)

ホ 同日から現在まで十全総合病院(新居浜市所在)

(三) 後遺症(同五四年一二月二一日症状が固定し、その内容は後遺障害別等級表一級に該当する。)

イ 右半身機能全廃による自力移動不可能

ロ 糞尿失禁状態

ハ 発声機能の完全喪失

ニ 眼球による認識不可能(かろうじて物を追う程度)

ホ 左眼瞼運動(まばたき)不存在

ヘ 命令に対する反応不存在

ト 粥食程度以外摂取不可能

2  原告優の損害(第一事件)

(一) 治療費――小計金四七三万七三一二円

イ 星加病院内――金一万二六九〇円

ロ 済生会西条病院(第一回目)分――金二九二万二三〇二円

ハ 愛媛大学付属病院分――金五七万三五二〇円

ニ 済生会西条病院(第二回目)分――金一二二万八八〇〇円

(二) 差額ベツド代(十全総合病院分のみ)――小計金二九八万七六〇〇円

イ 同五五年四月一日から同五九年二月一七日(本件口頭弁論終結日)まで――金一四一万八〇〇〇円(一日金一〇〇〇円の割合による一四一八日間分)

ロ 同月一八日から五年間(将来分)――金一五六万九六〇〇円(一箇月金三万円の割合による一箇年分金三六万円×四・三六=新ホフマン係数=)

(三) 入院雑費およびオムツ代――小計金一七〇一万七三二〇円

イ 同五三年四月二五日から同五九年二月一七日(本件口頭弁論終結日)までの入院雑費――金一〇六万二五〇〇円(一日金五〇〇円の割合による二一二五日間分)

イ' 右期間のオムツ代――金一七二万八五八〇円(同五五年三月末日までの分金四八万六五八〇円および同年四月一日からは一日金九〇〇円、一箇月金二万七〇〇〇円の割合による四六箇月分金一二四万二〇〇〇円)

ロ 同月一八日から六二年間の入院雑費およびオムツ代(将来分)――金一四二二万六二四〇円(入院雑費およびオムツ代の合計一日金一四〇〇円の割合による一箇年分金五一万一〇〇〇円×二七・八四=新ホフマン係数=)

(四) 付添費――小計金九一八四万〇一一〇円

イ 同五三年四月二五日から同五九年二月一七日(本件口頭弁論終結日)まで――金一七五六万一二九二円(但し、右期間中付添看護を必要としたので、〈1〉同五三年四月二五日から同年八月一六日までは済生会西条病院において原告唯子、訴外秋月理作子=原告唯子の姉=、訴外秋月敏子=原告唯子の母=および職業付添婦の四名が付添つたから、近親者付添費=但し、二人分のみ=として一日金三〇〇〇円の割合による一一四日間分の金六八万四〇〇〇円、職業付添婦一人分として実費の金四一万六〇一二円、小計金一一〇万〇〇一二円を、〈2〉同日から同年九月二九日までは愛媛大学付属病院において訴外秋月理作子が付添つたから、近親者付添費として一日金三〇〇〇円の割合により四四日間分の金一三万二〇〇〇円を、〈3〉同日から同年一〇月末日までは済生会西条病院において同人が付添つたから、近親者付添費として一日金三〇〇〇円の割合による三三日間分の金九万九〇〇〇円、職業付添婦一人分としての実費の金二一万一〇三八円、小計金三一万〇〇三八円を、〈4〉同年一一月一日から同五九年二月一七日=前記のとおり本件口頭弁論終結日=までは職業付添婦が付添つたから、職業付添婦分として実費の金一六〇一万九二四二円を、各請求する。)

ロ 同月一八日から六二年間(将来分)――金七四二七万八八一八円(右期間中も付添看護を必要とするので、職業付添婦分としての実費の一箇年分金二六六万八〇六一円=同五七年度分および同五八年度分の平均=×二七・八四=新ホフマン係数=)(小数点以下切捨)

(五) 交通費――小計金一五万一六一〇円

イ 寝台車料――金一万八〇〇〇円

ロ バス代――金五万八二九〇円

ハ タクシー代――金七万五三二〇円

(六) 後遺障害に基く逸失利益――金三二四六万〇七五九円

イ 年収(本件口頭弁論終結当時における最新版である同五七年度の賃金センサス=男子労働者産業計・学歴計・満一八歳=による。)――金一六五万八七〇〇円

ロ 労働能力喪失率――一〇〇%

ハ 労働能力喪失期間――前記症状固定時の満九歳から満六七歳まで。

ニ 新ホフマン係数――一九・五七

ホ 算式――一六五万八七〇〇×一×一九・五七=三二四六万〇七五九

(七) 慰藉料――金二〇〇〇万円(原告優は、幼児のうちにいわゆる植物人間となり、今後の長い生涯を悩み苦しみつゝ生きていかなければならず、その精神的・肉体的苦痛は重大であり、しかも現在まで長期間にわたり入院生活を余儀なくされいつ退院できるかもわからない状態にある。これらの諸点を総合考慮すると、金二〇〇〇万円とするのが相当である。)

(八) 弁護士費用――金七〇〇万円

(九) 合計――金一億七六一九万四七一一円

3  原告唯子の損害(第一事件)――慰藉料、金五〇〇万円(原告唯子は、原告優の実母として、今後原告優と共に生涯にわたつて苦しんでいかなければならず、その精神的苦痛は原告優の生命を害された場合に等しいかそれ以上の程度に達しているから、原告唯子には固有の慰藉料請求権が存するものというべきであり、金五〇〇万円とするのが相当である。)

4  原告近藤の損害(第二事件)――慰藉料、金三〇〇万円(原告近藤は、原告優の実父として、原告優の生命を害された場合に等しいかそれ以上の程度に達する精神的苦痛を蒙つているから、原告近藤には固有の慰藉料請求権が存するものというべきであり、金三〇〇万円とするのが相当である。)

四  損害の填補(原告優のみ)(第一事件)――合計金二二七八万八七一二円

1  原告優は、自賠責保険等から、合計金二二七八万八七一二円の支払を受けた。

2  したがつて、残損害額は、金一億五三四〇万五九九九円となる。

五  本訴請求(第一事件および第二事件共通)

よつて、請求の趣旨記載のとおりの判決(但し、遅延損害金は、被告に対する原告らの各訴状送達の日の翌日から民法所定年五分の割合による。)を求める。

第三請求原因に対する認否(第一事件および第二事件共通)

請求原因一項1ないし4、二項、三項1(全部)、2(一)(全部)、2(二)イ、2(三)イ、イ、四項1の各事実をいずれも認め、2(二)ロ中の単価(一箇月金三万円の割合による一箇年分が金三六万円であること)、2(三)ロ中の単価(入院雑費およびオムツ代の合計一日金一四〇〇円の割合による一箇年分が金五一万一〇〇〇円であること)、2(四)イ中の、原告主張の各期間付添看護を必要としその主張どおりの各期間および各病院でその主張どおりの各付添がなされその主張どおりの各金額を要したこと、2(四)ロ中の単価(職業付添婦の実費の一箇年分が金二六六万八〇六一円であること)、3中の原告唯子が原告優の実母であること、4中の原告近藤が原告優の実父であることの各事実はいずれも認めるが、2(二)ロ、2(三)ロ、2(四)イ、ロについての本件事故との相当因果関係を争い、その余の各事実をいずれも否認する。

第四被告の主張

一  過失相殺の主張(第一事件および第二事件共通)

1  本件事故の具体的態様は、以下のとおりであつた。すなわち、被告が加害車を運転して本件道路上を西から東に向つて時速約三〇キロメートルで進行中、その前(東)に方に存した本件道路に対して北方より交差する道路(以下、単に北方道路という。)上から、原告優が被害自転車に乗つて北から南に向つて(すなわち、本件道路上に)加害車の直前に飛び出す形で進出してきたために、加害車の前部バンパーと被害自転車の前輪とが衝突し、その衝撃のために原告優の身体は激しく前方につんのめるようにして加害車のボンネツトに打ちつけられ、その後、加害車は、被害自転車をその底部に巻き込み、原告優をそのボンネツトの上に乗せた状態のまま、約一六メートル進行し、原告優が右ボンネツトの上から本件道路上にずり落ちて後もなお進行を続け、結局、右衝突地点から約三七メートル離れた地点でようやく停車するに至つたものである。

2  しかして、本件交差点付近は日頃から交通が閑散であり、被告が本件交差点を通行することは極めて稀であつたため本件事故当時北方道路の存在を予知しておらず、しかも、本件交差点付近の状況からすると北方道路の存在を示すものとしては側溝の蓋だけしかなく、右蓋も一見空地の入口に設けられたものと感じられたため、被告にとつて原告優の右飛び出しを予見することは困難であつたのみならず、右のように北方道路の存在を認識することが困難な状況にあつたことに照らすと被告には徐行義務はなく、したがつて、被告にとつて原告優の右飛び出しを回避することもまた困難であつたというほかない。

なお、加害車が原告優を引きずりながら走行したとすれば、被告が衝突直後に急制動の措置を講じなかつたことが原告優に対する被害の程度を拡大させる一因になつたことは否めないが、前記のとおり加害車は衝突直後に原告優をそのボンネツトの上に乗せていたもので、原告優を引きずりながら走行した事実はない。

3  ところで、原告優は、被害自転車に乗つて北方道路上から本件道路上に向つて右折するにせよ左折するにせよ、右側通行(すなわち、自転車の通行区分違反)をしつつ、かつ、生垣の陰から突然本件道路上に飛び出してきたものであるから、原告優の過失は被告のそれに比較して著しく大きいというべきである。

なお、被告は、本件事故について、検察庁で不起訴にされ、検察審査会でも不起訴処分相当にされたもので、これらの点に照らしても原告優の過失が重大であつたことは明らかである。

4  以上の次第であるから、相応の過失相殺を主張する。

二  原告優の損害について(第一事件)

(一)  付添費について

1 本件口頭弁論終結日までの分については、付添人一人に要した費用で十分であり、原告主張のように複数の付添人の費用を要するものではない。

2 将来分については、職業付添婦による付添は不必要であり、近親者付添で十分である。なお、現在現実に付添つているのは原告の主張に出てくる原告優の伯母の訴外秋月理作子であり、しかも同人は本件事故後に職業付添婦に転職したものである。また、同人に支払われている付添費は不相当に高額である。同人に対しては住込の看護補助者としての賃金相当額が支払われている模様であるが、原告優の現在の容態に照らすと住込付添までする必要は存しない。

3 原告優に対し将来にわたつて付添を要する期間は、原告優の生存期間と一致するところ、鑑定の結果等に照らすと、原告優の生存期間は長くとも満四〇歳まで(すなわち、平均余命を全うすることはできない。)と考えられるから、将来の付添を要する期間も満四〇歳までとすべきである。

(二)  後遺障害に基く逸失利益について

後遺障害者の逸失利益の算定に際しては、通常は生活費の控除をしていないけれども、原告優のように精神障害や四肢挫性麻痺等の後遺障害が残存した場合(いわゆる寝たきりの状態の場合)には、通常の後遺障害者の場合と異り生活費の控除をすべきである。何故なら、原告優の将来の生活に必要な費用は、専ら医療費や付添費に限られており、原告優は、通常の後遺障害者に必要とされる稼働能力の再生産費や健全な精神の営みに基く諸種の社会生活上の支出から、完全に逸れているからである。

(三)  損害の填補について

原告優は、同五四年七月一〇日より自動車事故対策センターより一日金三〇〇〇円の介護料の支給を受けており、また、将来にわたつて介護を要する期間も右支給を受け続けることになつている。しかして、本件口頭弁論終結日までの一六八三日間における支給総額は金五〇四万九〇〇〇円であるから、右金額を原告優の損害額より控除すべきである。

第五被告の主張に対する原告らの答弁および反論

一  過失相殺の主張に対し(第一事件および第二事件共通)

1  過失相殺の主張は争い、その基礎事実は否認する。

2  そもそも被告主張のように原告優が加害車の直前に飛び出した事実は、全くない。このことは、原告優が飛び出したのであれば、加害車の左前部が破損し、原告優自身も被害自転車と共に衝突地点で左側に跳ね飛ばされている筈であるのに、そのような事実が存在しないことに照らして明らかである。かえつて、被告は、本件道路上の中央付近(幅員四・三メートルの道路の北側端から二・一メートルの地点)で、加害車の前部バンパーのほぼ中央付近およびナンバープレートの箇所を被害自転車に衝突させ、その後に、被害自転車をその下に巻き込んで約四二メートルにわたつて、また、原告優自身をも約一七メートルにわたつて引きずつて、走行を継続したのみならず、加害車のスリツプ痕が存在しないことに照らして明らかなように衝突前から停車するに至るまで全く急制動の措置を講じていなかつた。そればかりか、被告は、衝突後も加害車の速度を落すことなく、その下部から後方に向けて火および煙を吹きながら走行し続け、右走行中に原告優の帽子をその左側に、さらにその後に荷物のようなもの(実は、原告優)を同様にその左側に落下させたにも拘らず停まる様子もなく走行を継続し、加害車はその下に被害自転車を巻き込んでいたために自然停車するに至つたものである。

3  右のとおり原告優が本件道路上の中央付近に出ていたにも拘らず、被告は、前方注視を怠りこれに全く気付かなかつたばかりか、付近が住宅街であつたのに異常な高速のまま走行し続けたのみならず、衝突の前後にわたつて全く急制動の措置を講じておらず、したがつて、衝突後も原告優の存在に気付いていなかつたか、そうでないとすればひき逃げしようと企図していたかのいずれかであつた。

なお、本件道路は、車両の交通量の極めて少ない住宅街における小学生の通学路に指定されている道路であり、しかも、本件道路の入口(西方)からその東方に存在する本件交差点までの間には本件道路に対して北方より交差する道路が北方道路より手前(西方)にもう一つあり、被告は、その前を通過しているのであるから、右のような住宅街における道路の状況に思いを到してよく前方を注視してさえいれば容易に北方道路の存在に気付いた筈であり、時間的にも原告優のような小学生が遊んでいることを容易に予測できた筈であつて、被告が北方道路の存在に気付かなかつたと主張すること自体自己の前方不注視を自認していることにほかならない。

さらに、被告主張の生垣は、本件事故当時は規模が小さく、したがつて、本件道路上からの北方道路上に対する見通しも良好であつて、北方道路と本件道路との境目(北方道路の南端)付近は、本件道路上のかなり遠い地点からも認識することが可能であつた。なお、北方道路の幅員は四・四メートルで、本件道路のそれとほぼ同じであつた。

4  しかして、原告優は、本件事故当時満七歳の小学生であつたのであるから、仮に被害者側に過失が認められるとしても、最少限の評価にとどめるべきである。

二  原告優の損害に対し(第一事件)

(一)  付添費(付添期間)に対し

原告優の生存期間および付添期間は、平均余命に依るべきである。鑑定の結果によつても「医学的根拠をもつてその生存期間を特に定めて推測することは到底不可能」とされている。なお、自動車事故対策センターに対する調査嘱託の結果は、いわゆる植物人間に対する調査であるがその病状が不明であり、何ら参考になり得ない。

(二)  後遺障害に基く逸失利益(生活費の控除)に対し

被告主張のように原告優の将来の生活に必要な費用が医療費や付添費に限られているなどということは、全くない。食事一つを例にとつても固形物が食べられないために通常人以上の配慮を必要としておりそのための費用もかかり、また、外出することもあり衣服等も通常人と同じように必要としている。したがつて、死亡事故のように生活費が控除されるいわれはない。

(三)  損害の填補(介護料の支給)に対し

原告が自動車事故対策センターより被告主張の介護料の支給を受けていることは事実であるが、右介護料は、自賠責保険のような損害の填補の性格を有するものではなく、福祉的性格のものであるから、原告優の損害額より控除すべきものではない。なお、このことは、既に自動車事故対策センターおよび任意保険各社においても確認済みである。

第六証拠(第一事件および第二事件共通)〔略〕

理由

第一事故の発生(第一事件および第二事件共通)

請求原因一項1ないし4の各事実は、いずれも当事者間に争いがなく、また、成立に争いのない甲第八ないし第一〇号証、同第一二号証の一ないし三(但し、同号証の一については、後記採用しない部分を除く。)、被写体および撮影年月日について争いのない検甲第一号証の一ないし一〇、同第二、第三号証の各一ないし三、証人田中アヤ子、同大村正人(但し、以上二名については、後記措信しない部分を除く。)、同近藤幸夫の各証言、原告唯子本人尋問の結果(第一、二回)、被告本人尋問の結果(但し、後記措信しない部分を除く。)、本件事故現場に対する検証の結果(但し、後記採用しない部分を除く。)、交通安全協会に対する調査嘱託の結果および弁論の全趣旨を総合すると、本件事故の具体的態様等は、以下のとおりであると認められる。すなわち、本件道路は、市街地(住宅街)に存する、東西に直線に走る、幅員約四・五メートルの、歩車道の区分およびセンターラインの表示の各存しない、アスフアルト舗装された、平坦な、速度規制のない、少くとも現在においては通学路に指定されている道路で、これに対し、南北に直線に走る、有効幅員約三・六メートルの、歩車道の区分およびセンターラインの表示の各存しない、アスフアルト舗装された、概ね平坦な、北方道路が丁字型に交差(なお、本件道路と北方道路の交差する境目には幅員約二〇センチメートル強の側溝が存し、その上にコンクリート製の蓋が設けられていた。)し、本件交差点を形成していた。しかして、本件道路は、本件事故当時乾燥し、人や車両の通行量は少く(なお、当裁判所による本件事故現場に対する検証=昭和五六年五月七日午前一〇時三〇分頃=当時における一〇分間の車両の通行量は、僅か数台であつた。)、本件道路上から本件交差点の北西角の方向に対する見通しは人家やその生垣に視界を妨げられてそれ程良くなかつたものの、本件道路上を走行中の加害車から右記北西角の陰付近を最初に認識することは右記陰付近より手前(西方)約一〇メートル位の地点から可能=本件事故現場に対する検証の結果中の検証図面(三)(イ)点と(ロ)点間の距離、二〇参照=であつた。しかして、右記認識可能な地点から後記衝突地点までの距離は約九メートル=同図面(ロ)点と(X)点間の距離、参照=であつた。なお、本件交差点には信号機は勿論のこと他に何らの道路標識も設置されていなかつた。

さて、被告は、勤務先から帰宅の途上、加害車を運転して本件道路上を進行(なお、当時国鉄がストライキをしていたために常日頃通行していた国道一一号線が渋滞していたので、裏通りに相当する本件道路上を通行したものの、それ以前に本件道路上を通行したのは二、三年前に一回限りであつた。)中、北方道路より手前(西方)約二〇メートル位のところに存したもう一つの「本件道路に対して北方より交差する道路」の前を通過(尤も、被告としては右記道路の存在をそれ程意識していなかつた模様である。)後、本件交差点の手前(西方)に差しかかつた際、被告としては北方道路の存在を予め知らなかつた模様であるが、本件道路と北方道路の交差する境目に存した前記側溝の蓋についてはかなり手前(西方)より視認し得た状態(但し、北方道路のことを道路というより空地程度にしか認識していなかつた模様である。)で走行(なお、その時の被告の注意は右記蓋よりもむしろ本件交差点の南側に存した訴外塩出工務店の前に当時西向きに駐車していたトラツク=本件道路の南側端より若干本件道路上にはみ出ていた。=の方に向けられていた。)し、本件交差点直前付近では時速約三〇キロメートル程度の速度で進行中、本件交差点内で原告優を発見するとほぼ同時に、「本件道路上のセンターライン(但し、前記のとおり、実際にはその表示は存しない。)に相当するところよりやや左(北)寄りの線」および「北方道路上のセンターライン(但し、右記同様その表示は存しない。)に相当するところとその西側端のところとのほぼ真中の線を本件道路上に延長した線」との交点付近において、加害車の前部バンパーの中央付近および前部ナンバープレートの中央付近を、折柄原告優が右記延長線上を運転(すなわち、センターラインに相当するところより右側を通行)してきた被害自転車の前輪付近に対して衝突させた(その時に、大きな衝突音が発生している。)うえ、原告優の半身を横向きの状態で加害車のボンネツト左側の部分(左窓の前付近)の上に乗せ、かつ、被害自転車のほぼ左側を下にして加害車の車体の下方(左側車輪の前輪と後輪の間付近)に敷いたままの状態で、加害車の後方の下の方(運転席の下付近)より黒煙や火花を発生させつつ走行を継続し、その後原告優の帽子を右記ボンネツトの上より落下させ、さらにその後に(右記衝突地点より約一六・七メートル東方にして、本件道路上のセンターラインに相当するところとその北側端のところとのほゞ真中付近の地点で)原告優自身を右記ボンネツトの上より横に滑り落とす形で転落させ(当時、右記地点付近に多量の血痕が付着していた。)、右記衝突地点より約三六・七メートルの地点でようやく停車するに至つた(当時、本件道路上に、右記衝突地点より東方に向つて約二メートル強にわたり被害自転車のタイヤ痕および転倒痕が、その後さらに東方に向つて右記停車地点までにわたり被害自転車の擦過痕が、各付着していた。)。

しかして、被告は、右記衝突以前に急制動の措置を講じたことはなく、最終的には足がブレーキのところに存したものの、あわてていたためにいつ踏んだかは判明しないのみならず、停車するまで全く急制動の措置を講じなかつた可能性もある(なお、当時、本件道路上には、加害車のスリツプ痕の付着は認められなかつた。)。因に、時速および道路面の摩擦係数が所与の数値の時に制動距離(単位メートル)を算出する公式は、

制動距離=(時速)2/259×摩擦係数

である(経験則ないし公知)ところ、本件事故当時の加害車の時速は約三〇キロメートル、本件道路面(アスフアルト舗装された乾燥状態にある道路面)の摩擦係数は〇・五五(経験則ないし公知)であつたから、右公式により右記制動距離を算出すると、約六・三二メートルとなる。なお、被告は、右記衝突の前後を通じてハンドル操作を講じたことは一回もなかつた。また、被告は、加害車の停車直後に「しまつた」とか「やつた」などと口走つていた。

ところで、原告優は、本件事故当時満七歳(但し、この点は、当事者間に争いがない。)の子供で、日頃活発で元気であり、本件事故現場付近で自転車に乗つて遊んでいたこともあつた。また、時間的にも本件事故当時にはまだ日射しが残つていた。なお、被告としても、北方道路が空地であれば子供が本件道路上に飛び出してくる可能性が存することを肯定している。

因に、被告は、刑事上は、検察庁で不起訴に、検察審査会でも不起訴相当に各付されており、何らの処分も受けることなく終了している。

なお、北方道路上のほぼセンターラインに相当するところから前記衝突地点における加害車を見通すことは、約一〇メートル以上にわたつて可能であつた。

以上の事実を認めることができ、これに反する甲第一二号証の一、証人田中アヤ子、同大村正人の各証言、被告本人尋問の結果および本件事故現場に対する検証の結果の各一部は、いずれも前掲各証拠および弁論の全趣旨と対比し、採用ないし措信せず、他に右認定に反する程の証拠は存しない。

第二責任原因(運行供用者責任、自賠法三条)(第一事件および第二事件共通)

請求原因二項の事実は、当事者間に争いがない。そうすると、被告には、自賠法三条により、本件事故に基く原告らの各損害を各賠償する責任がある。

第三原告優の損害(第一事件)

一  原告優の受傷等

請求原因三項1の事実(受傷、入院期間および後遺症の内容等)は、当事者間に争いがない

二  原告優の損害

1  治療費――小計金四七三万七三一二円

請求原因三項2(一)の事実は、当事者間に争いがない。

2  差額ベツド代――小計金二九八万七六〇〇円

イ 本件口頭弁論終結日までの分――金一四一万八〇〇〇円

請求原因三項2(二)イの事実は、当事者間に争いがない。

ロ 将来分――金一五六万九六〇〇円

請求原因三項2(二)ロの事実中の単価の点(一箇月金三万円の割合による一箇年分が金三六万円であること)は、当事者間に争いがない。

しかして、原告優が将来にわたつて生存する期間は、後記4、ロのとおり、二七年間とするのが相当である。

ところで、成立に争いのない甲第三、第六号証、原告唯子本人尋問の結果(第一回)、鑑定人松岡健三の鑑定の結果、原告優の後遺障害の状況に対する検証の結果および弁論の全趣旨を総合すると、原告優は、現在入院先の十全総合病院で「特B一二六号室」と表示されている個室に起居しており、自力でベツドの上に起き上ることができないため付添人がベツドの下の方(原告優が横たわつている時の足の存する方)にあるハンドルを回してベツドの上の方(原告優が横たわつている時の頭の存する方)の半分位の部分を立て、これを背もたれにしてベツドの上に起き上つている状態にあり、原告主張の将来の五年間程度は右記状態で入院を継続する必要が存する旨の事実を認めることができ、他にこれに反する程の証拠は存しない。

そうすると、右記差額ベツド代の将来分は、左記算式のとおり金一五六万九六〇〇円となる(なお、新ホフマン係数は、原告主張のとおり、小数点第二位までとし第三位以下を切捨てた。)。

算式――三六万×四・三六=一五六万九六〇〇

3  (入院)雑費およびオムツ代――小計金一一三七万五八八〇円

イ 本件口頭弁論終結日までの分――金二七九万一〇八〇円

請求原因三項2(三)イ、イの各事実は、いずれも当事者間に争いがない(なお、本件事故当時の入院雑費は、原告主張のとおり、経験則上少くとも一日金五〇〇円とするのが相当である。)。

ロ 将来分――金八五八万四八〇〇円

請求原因三項2(三)ロの事実中の単価の点(入院雑費およびオムツ代の合計一日金一四〇〇円の割合による一箇年分が金五一万一〇〇〇円であること)は、当事者間に争いがない(なお、入院雑費を一日金五〇〇円とすることが相当であることについては、右記イのとおり。)。

しかして、原告優が将来にわたつて生存する期間は、後記4、ロのとおり、二七年間とするのが相当である。

ところで、成立に争いのない甲第三、第五、第六号証、原告唯子本人尋問の結果(第一回)、鑑定人松岡健三の鑑定の結果、原告優の後遺障害の状況に対する検証の結果および弁論の全趣旨を総合すると、原告優の右記生存期間中は(たとえ途中から自宅療養に変つたとしても)、雑費およびオムツ代(なお、原告優は、現在糞尿失禁状態にあり=但し、この点は、当事者間に争いがない。=、今後共回復の見込は存しない。)を必要とする旨の事実を認めることができ、他にこれに反する程の証拠は存しない(なお、自宅療養後の雑費も、原告主張のとおり、経験則上少くとも一日金五〇〇円とするのが相当である。)。

そうすると、右記雑費およびオムツ代の将来分は、左記算式のとおり金八五八万四八〇〇円となる(なお、新ホフマン係数は、前記同様小数点第二位までとし第三位以下を切捨てた。)。

算式――五一万一〇〇〇×一六・八〇=八五八万四八〇〇

4  付添費――小計金四一七二万五〇一二円

イ 本件口頭弁論終結日までの分――金一一〇六万五〇一二円

請求原因三項2(四)イの事実中、原告主張の各期間付添看護を必要としその主張どおりの各期間および各病院でその主張どおりの各付添がなされその主張どおりの各金額を要したことは、いずれも当事者間に争いがない。

ところで、成立に争いのない甲第三、第六、第一五、第三一号証、原告唯子本人の尋問の結果(第一回)により真正に成立したものと認められる同第七号証、原告唯子本人尋問の結果(第一、二回)、鑑定人松岡健三の鑑定の結果、原告優の後遺障害の状況に対する検証の結果および弁論の全趣旨を総合すると、原告優は本件事故日である同五三年四月二五日から少くとも同年八月一六日までは昏睡状態にあつたために付添人三人の交替による二四時間看護を必要とし、同年一〇月一日からは原告唯子の姉である訴外秋月理作子が職業付添婦に転職(その理由は、本来の職業付添婦では住込付添であるために仕事がきつすぎて勤らなかつたことや付添をしていた期間中自己の当時の勤務先を欠勤したために退職勧告を受けるに至つたことに存した。)した旨の事実を認めることができ、他にこれに反する程の証拠は存しない。

しかして、右期間(同年四月二五日から同年八月一六日まで)中の付添に対しては、職業付添婦一人分としての実費金四一万六〇一二円および近親者二人分としての一一四日間分の付添賃金六八万四〇〇〇円、小計金一一〇万〇〇一二円(但し、この点は、前記のとおり、当事者間に争いがない。)(なお、本件事故当時の近親者一人分の入院付添費は、原告主張のとおり、経験則上一日金三〇〇〇円とするのが相当である。)と、その後の同月一七日(なお、原告主張の同月一六日の重複分は、除外する。)から同年九月末日までの期間中の付添に対しては、近親者一人分としての四五日間分の付添費金一三万五〇〇〇円(なお、近親者一人分の入院付添費を一日金三〇〇〇円とすることが相当であることについては、右記のとおり。)と、近親者である訴外秋月理作子が職業付添婦に転職=前記のとおり、同年一〇月一日=した後の同日から同月末日までの期間中の付添に対しては、後記4、ロのとおり、転職後の一日金五〇〇〇円の割合による金一五万五〇〇〇円と、また、同年一一月一日から本件口頭弁論終結日までの期間(一九三五日間)中の付添に対しては、右記同様に後記4、ロのとおり、転職後の一日金五〇〇〇円の割合による金九六七万五〇〇〇円と、各するのが相当である。

ロ 将来分――金三〇六六万円

自動車事故対策センターに対する調査嘱託の結果、鑑定人松岡健三の鑑定の結果(但し、いずれについても、後記採用しない部分を除く。)および弁論の全趣旨を総合すると、原告優の生存期間と付添看護を要する期間は同一であり(すなわち、途中から自宅療養に変ると否とを問わず、終生付添看護を必要とし)、手厚い付添看護によつてのみ誤飲による肺炎や窒息、褥創による敗血症や尿路感染から免れて生存を継続することができるが、当該患者の生存期間は、自動車事故に基く重度後遺障害者の現実の事例においても、事故の数年後に死亡している者、事故の一八年後に死亡している者、事故の数年後に病状より脱却している者等バラバラであるのみならず、患者の年齢、付添看護をする者や担当医の熱意ないし力量(技術)、治療条件、生活条件その他の患者のおかれている環境条件および医学の将来における進歩等に非常に左右され易く、したがつて、原告優の生存期間を特に定めて推測することは不可能であるが、敢えていえば、満四〇歳まで生存することは至難である旨の事実を認めることができ、これに反するかのような自動車事故対策センターに対する調査嘱託の結果および鑑定人松岡健三の鑑定の結果の各一部は、いずれも前掲各証拠および弁論の全趣旨と対比し(また、右記調査嘱託の結果については、事故当時の年齢や病状の具体的内容が各不分明であることに照らし)、採用せず、他に右認定に反する程の証拠は存しない。

右の事実によれば、原告優の生存期間(すなわち、付添看護を要する期間)は、大きくみても満四〇歳まで(すなわち、今後=本件口頭弁論終結日以降=二七年間)とみて差し支えない(また、そうせざるを得ない)ものと考えられる。

しかして、前記のとおり、将来の付添人も既に職業付添婦に転職している近親者である訴外秋月理作子であると考えられるが、被告主張のように近親者付添費しか認めないと職業付添婦に対する実費と近親者付添費との差額を原告唯子が負担しなければならない(すなわち、家政婦紹介所に対し支払わなければならない。)筋合になる反面、原告主張のように職業付添婦としての実費全額を認めると訴外秋月理作子の近親者としての恩愛の情に基く分まで被告に負担させてしまう結果になり(すなわち、訴外秋月理作子が家政婦紹介所より職業付添婦としての実費全額を貰う結果になる。)、いずれも相当ではなく、また、前記住込付添が終生必要か否かもいまだ定かとは言い難い(前記のとおり、途中から自宅療養に変る可能性も考えられる。)ので、これらの諸点を総合考慮のうえ、一日金五〇〇〇円の割合による一箇年分金一八二万五〇〇〇円の限度で、左記算式のとおり金三〇六六万円を肯認する(なお、新ホフマン係数は、前記同様小数点第二位までとし第三位以下を切捨た。)。

算式――一八二万五〇〇〇×一六・八〇=三〇六六万

5  交通費――小計金一一万二二九〇円

成立に争いのない甲第二一号証の一ないし六(但し、同号証の四ないし六については、後記採用しない部分を除く。)、原告唯子本人尋問の結果(第一回)(但し、後記措信しない部分を除く。)および弁論の全趣旨を総合すると、イ―原告優が愛媛大学付属病院に入院した時、同病院においてその親族が手術の説明を受けた時および原告優が手術の施行を受けた時、原告優が同病院を退院した時の少くとも合計四回は、同病院と原告唯子の住所(前記のとおり、西条市所在)との間を親族同伴のうえで行く必要が存したたためにタクシーを利用し、一往復金九〇〇〇円、合計金三万六〇〇〇円を要し、また、ロ―同病院では住込付添を禁止していたため、前記のとおり、訴外秋月理作子が同病院において付添をする(但し、この点は、当事者間に争いがない。)ために通院をする必要が存したためにバスを利用し、少くとも合計金五万八二九〇円を要し、さらに、ハ―原告優が同病院から原告唯子の住所まで帰る時に寝台車を使う必要が存したためにこれを利用し、金一万八〇〇〇円を要した(したがつて、交通費の小計は金一一万二二九〇円となる。)旨の事実を認めることができ、これに反する甲第二一号証の四ないし六および原告唯子本人尋問の結果(第一回)の各一部は、前掲各証拠および弁論の全趣旨と対比し、採用ないし措信せず、他に右認定に反する程の証拠は存しない。

6  後遺障害に基く逸失利益――金一四七九万五六〇四円

イ 年収(但し、本件口頭弁論終結時における最新版である同五七年度の賃金センサス中の、産業計・企業規模計・男子労働者学歴計・満一八歳ないし一九歳の金額による。)金一六五万八七〇〇円

ロ 労働能力喪失率――請求原因三項1(三)の前記争いのない事実中の原告優の後遺症の内容に照らすと、原告主張のとおり、一〇〇%とするのが相当である。

ハ 労働能力喪失期間――右記争いのない事実中の原告優の後遺症の症状固定時および前記の原告優の生存期間に照らすと、満九歳から満四〇歳までとするのが相当である(なお、満一八歳に達するまでの待機期間を考慮することは、いうまでもない。)。

ニ 新ホフマン係数――一一・一五(前記同様小数点第二位まで=小数点第二位同士を差引いた。=とし第三位以下を切捨てた。)

ホ 生活費の控除割合――成立に争いのない甲第二九号証の一、二、被写体および撮影年月日に争いのない検甲第四号証の一ないし四、原告唯子本人尋問の結果(第二回)(但し、後記措信しない部分を除く。)、原告優の後遺障害の状況に対する検証の結果および弁論の全趣旨を総合すると、原告優は、同五八年三月当時西条市立橘小学校へ二年生として通学し、右記通学を要する日数二四三日間中三五日間を出席したが、その際には、通常人と同様の衣服を着用したうえ、車椅子に乗つたままの状態でさらに自動車に乗つて同校へ赴き、必ず二時間は同校に滞在し、また、日頃病室にいる時には病室用の衣服を着用したうえ、他の患者と同様の食事を摂取するが堅い物は食べられないので軟い物を自費で購入している旨の事実を認めることができ、これに反するかのような原告唯子本人尋問の結果(第二回)の一部は、前掲各証拠および弁論の全趣旨と対比し、措信せず、他に右認定に反する程の証拠は存しない。

右の事実によれば、原告優は、通学時以外は病室用衣服で事足り、食事も軟い物のみを自費で購入する程度にとどまつていることが明らかであるから、これに前記病状も考慮すると、通常人よりある程度生活費を要しない状態にあるものといわざるを得ないので、その生活費の二〇%を控除するのが相当である。

ヘ 算式――一六五万八七〇〇×一×一一・一五×〇・八=一四七九万五六〇四

7  慰藉料 金一〇〇〇万円

前記認定の本件事故の態様、原告優の、受傷の部位と程度、入院期間、後遺症の内容と程度(一級)、年齢、終生付添看護を必要としていること、将来の生存期間、その他諸般の事情を総合考慮すると、金一〇〇〇万円とするのが相当である。

8  総損害額 金八五七三万三六九八円

第四原告唯子の損害(慰藉料)(第一事件)――金一五〇万円

原告唯子が原告優の実母であることは、当事者間に争いがない。

しかして、前記認定の原告優の、受傷の部位と程度、入院期間、後遺症の内容の程度(一級)、年齢、終生付添看護を必要としていること、将来の生存期間、その他諸般の事情を総合考慮すると、原告唯子の精神的苦痛は、原告優の生命を害された場合に比肩するかまたは右の場合に比して著しく劣らない程度(最高裁判所同四三年九月一九日判決、参照)に至つているものと考えられるから、原告唯子に対する慰藉料を肯認し、その金額を金一五〇万円とするのが相当である。

第五原告近藤の損害(慰藉料)(第二事件)――金五〇万円

原告近藤が原告優の実父であることは、当事者間に争いがない。

しかして、右記第四と同様原告近藤に対する慰藉料を肯認し、成立に争いのない甲第二四号証および弁論の全趣旨を総合すると認められる、原告近藤が既に原告唯子と離婚し遠方(長崎市)に居住している旨の事実(これに反する程の証拠は存しない。)に照らし、その金額を金五〇万円とするのが相当である。

第六過失相殺(第一事件および第二事件共通)

前記第一で認定した事実によれば、被告としては、本件道路が、住宅街に存する、幅員のそれ程広くない、少くとも現在においては通学路に指定されている、車両の通行量の少い道路であり、本件交差点には信号機は勿論のこと他に何らの道路標識も設置されておらず、北方道路より手前(西方)で北方道路と同様のもう一つの道路の前を通過したうえ、本件交差点における前記側溝の蓋をもかなり手前(西方)より視認し得、少くとも北方道路のことを空地程度には認識しており、仮に空地であつたとしても子供が本件道路上に飛び出してくる可能性が存し、時間的にも本件事故当時にはまだ日射しが残つており、また、本件道路上からの本件交差点北西角の方向に対する見通しはそれ程良くなかつたものの、本件道路上を走行中の加害車から右記北西角の陰付近を最初に認識することは右記陰の手前(西方)約一〇メートル位の地点から可能であり、右記認識可能な地点から前記衝突地点までの距離は約九メートルであり、かつ、本件事故当時の加害車の制動距離は約六・三二メートルであつた、のであるから、不測の事態に備えて、前(東)方(特に左前=北東=方)に対する安全確認を十二分にし、本件事故当時の原告優の具体的動静に即応して急制動および右転把の各措置を講じ、事故の発生を未然に防止すべき注意義務が存したのに、これらを怠り、注意をむしろ右前(南東)方の前記駐車トラツクの方に向けたのみで、漫然時速約三〇キロメートルのまま、急制動および右転把の各措置は勿論のことその他何らの措置も講ぜずに進行した過失により、本件事故を発生させたことは明らかである(なお、被告が刑事上何らの処分も受けなかつたことは、右記過失を左右するに足りない。)が、他方において、右記のとおりの道路状況のもとにおいて通行量が少なかつたとはいえ本件道路は車両が通行する道路であり、時間的にも本件事故当時には勤務先からの帰宅途上の車両が通行する可能性が存したのみならず、右記のとおり、本件道路上からの本件交差点北西角の方向に対する見通しはそれ程良くなく、かつ、本件交差点には信号機その他の何らの道路標識も設置されていなかつたこと、本件道路および北方道路の各幅員(すなわち、北方道路の幅員の方が若干狭いこと)および本件道路上における前記駐車トラツクの存在、等に照らして考えると、原告優にも、北方道路上より本件道路上に進入するに際して、被害自転車より降りるか、乗つたままの場合にはできる限り北方道路の左(東)側端に寄つたうえ左右(特に、見通し不良の右=西=方)をよく注視(なお、前記のとおり、北方道路上のほぼセンターラインに相当するところから前記衝突地点における加害車を見通すことは、約一〇メートル以上にわたつて可能であつた。)して速度を落して進行すべき注意義務が存したのに、これらを怠つた旨の過失が存した(しかも、本件道路上のほぼ中央付近まで進出のうえ衝突している。)ことは否定し難く、かつ、右記過失も本件事故の発生の一因を成しているものと考えられるから、右記被告の過失の態様、本件事故当時の原告優の年齢、被害車の車種が自転車であること、その他諸般の事情も総合考慮の上、原告らの(総)損害額の四分の一(二五%)を減ずるのを相当と考える。そうすると、原告らの過失相殺後の各損害額は、次の算式のとおり、原告優について金六四三〇万〇二七三円、原告唯子について金一一二万五〇〇〇円、原告近藤について金三七万五〇〇〇円となる。

算式 八五七三万三六九八×〇・七五≒六四三〇万〇二七三(小数点以下切捨)

一五〇万×〇・七五=一一二万五〇〇〇

五〇万×〇・七五=三七万五〇〇〇

第七損害の填補(原告優についてのみ)(第一事件)――金二二七八万八七一二円

請求原因四項1の事実は、原告優の自認するところであるから、原告優の右記過失相殺後の損害額から右記填補分を差し引くと、その残損害額は、金四一五一万一五六一円となる。

ところで、被告主張の介護料について吟味するに、原告が自動車事故対策センターより右記介護料の支給を受けていることは当事者間に争いがないか、成立の争いのない甲第三〇号証、自動車事故対策センターに対する調査嘱託の結果および弁論の全趣旨を総合すると認められる、〈1〉右記介護料は、自動車事故により頭部または脊髄に損傷を受け、その後の治療にも拘らず、寝たきりの状態で治療および常時の介護を必要とする者について被害者家庭の負担を軽減するための制度であり、〈2〉労働者災害補償保険法に基く特別看護の保険給付を受けている時、身体障害者福祉法にいう身体障害者療護施設その他これに類する施設に収容されている時および受給資格者または受給資格者を現に扶養している親族の前年の所得金額が金一〇〇〇万円を超える時にはいずれも右記介護料は支給されないことになつており、〈3〉任意保険会社の対人賠償保険の一つである「将来の介護料」に関する支払基準においても、任意保険各社は自動車事故対策センターより支給される右記介護料を差し引くことなく別途に任意保険会社としての介護料を支払うこととなつている、旨の事実(これに反する程の証拠は存しない。)や自動車事故対策センター法に右記介護料の支給者である自動車事故対策センターが被害者の加害車に対する損害賠償請求権を代位取得する旨の規定が見当らない事実を総合考慮すると、右記介護料の支給は損害の填補に該らず、原告優に認められた損害賠償額からは控除しないことにするのが相当であると解される。

そうすると、結局、原告優の残損害額は、前記のとおり、金四一五一万一五六一円となる。

第八弁護士費用(原告優についてのみ)(第一事件)――金二〇〇万円

本件事案の内容、審理経過、認容額等に照らすと、金二〇〇万円とするのが相当である。

第九結語(第一事件および第二事件共通)

よつて、原告らの本訴各請求は、いずれも主文の限度で理由がある(なお、遅延損害金は、原告優および原告唯子=第一事件=については訴状送達の日の翌日であることが本件記録上明らかな同五五年七月七日から、原告近藤=第二事件=については同じく訴状送達の日の翌日であることが本件記録上明らかな同五六年一一月四日から、各支払済まで各民法所定年五分の割合による。)から正当として認容し、原告らのその余の各請求はいずれも理由がないから失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 柳沢昇)

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